一人になって、大きくため息をつく。
(俺は、本当に何をやってるんだ……)
天井を仰いだ。
クレアはあれでもう立ち直ってくれるだろう。
美咲のおかげだ。
……けど、彼女自身は。
美咲に俺がしたことは、簡単に片づけられる事じゃない。
(まさか、あれが現実だったなんて……)
でも、だったらなぜ美咲は俺を拒まなかったんだ?
ふと疑問がわき上がる。
あの時は、夢だと思っていたから、俺の願い通りに美咲が動いても当然だと思った。
受け入れてくれたのも、すべて夢だからなんだと。
でも、あれが現実なら……なんで、美咲は俺を突き飛ばさなかった?
なぜあんな風に、黙って俺を受け入れた?
廊下の壁に寄りかかる。
瞬間、肩に走った痛みに顔をしかめた。
「あ……」
……すべての理由が理解できた。
俺が、怪我をしていたからだ。
だから彼女は、俺に抵抗しかなかった。
(くそ、俺……本当に最低だな)
壁に拳を力一杯打ち付ける。
美咲が怪我したやつを突き飛ばす事なんて、まして剣で突き刺すなんて出来るはずがないのを知っていて、俺は強要したんだ。
間接的に彼女の動きを封じた上で、俺は彼女を強引に自分のものにした。
「くそっ!」
彼女を守ると誓ったはずなのに、俺は自分自身で美咲を傷つけた。
……最低な方法で。
自分が許せなかった。
大切な人を、あんな風に傷つけた自分が、どうしても許せなかった。
「俺は、どうしたらいい……?」
呆然と呟いた。
(中略)
「ね、ルーク」
「ん?」
「昨日のことは、これでもう帳消しだからね」
「美咲……?」
「そんなに自分のこと、責めなくていいよ」
「……っ」
言葉が見つからなかった。
「まずは、ちゃーんと怪我を治すことの方が重要です」
美咲はいたずらっぽく笑ってみせる。
――本当に、美咲には敵わないと思う。
こんな風に笑われたら、甘えてしまいたくなる。
俺はこれからも君の側にいてもいいんだろうか。
変わらず笑顔を向けてくれる君に、甘えてしまってもいいんだろうか。
「美咲……」
「それには、ちゃんとご飯たべないとね」
美咲につられて、思わず微笑んでいた。
――俺が君にしたことは、絶対に許されない。
でも、俺はやっぱり、君を守りたいと思ってしまう。
だから、君が俺に笑顔を向けてくれる間は……、もう少しそばにいさせてくれないか。
もう二度と君を傷つけるような真似はしない。
命を賭けてでも、君を守ると誓うから。
「あ、ああ。そうだな。朝メシでも食べに行こう」
「うん」
「朝メシは一日の基本だもんな」
美咲の手を取って歩き出す。
「そうだね」
「やっぱり、俺は美咲の笑顔が好きだよ」
美咲が俺に向けてくれる明るい笑顔が、本当に好きだった。
失いたくなくて、手放したくなくて、……彼女自身を傷つけてしまうほどに。
「え?」
「じゃ、行くぞ」
「ちょっと、うわっ、待ってってば!」
美咲の手を引いたまま、俺は食堂へと向かった。